天 唇
聞こえざるもの聴きたければ
虚空ゆく風のながれに耳すすぐかな 村木道彦 『 天 唇 』 より
都内の木々もしだいに色づいて晩秋の様相になりました
先月の終わり インフルエンザの予防接種に お馴染みの神田駿河台への道すがら
例年 この時期は 神田神保町古本祭りと重なるので
昔馴染みの古本屋に迂闊に引っかかってしまうと 診療時間外の失態となる
まず 露店棚と店舗内を流し見 帰りにゆっくりと品定め と目論みました
今年の注射は 年若い研修医のような男性が 左肘すぐ上に刺し
いつになく痛いもので 当日から腫れ上がり 落ち着くまで6日ほどかかりました
これは自分の体質のせいなのか?医師の腕が悪いのか?運が悪かったのか?
まま なべて世は 運のせいにすれば およその事が片付きますから 何かのせいにしたほうが気持ちの決着が着き易い
今回は 不運 ということにしておきましょう:笑
さて 帰り道
一年ぶりの古本祭りの人混みをかき分けかき分け 目星を着けたT村書店に
露店ワゴンを見ると 手持ちの古い歌集が数冊 丁寧にグラシン紙に包まれ番頭さん寄りの場所に並んでいる
昔 よく見かけたここで修業をしている若い丁稚どん達は姿が見えず 中年の番頭さんらしき人が露店を仕切り
「 最近 うちの旦那の値付けが読みにくくなってねぇ~ お客さんにも不評だし わたしも見にくくて、、」
この言葉をもう少し 注意深く聴いておけばその後の重なる不運も回避できたかもしれません:笑
店内東向き中央棚は昔から変わらない近現代詩歌豪華本稀覯本私家本などが並ぶ場所
下方隅 をを~っ! ここで遇ったが30年目 『 天唇 』 がひっそりと佇んで居たのです
その横には 濱田到 鳥肌と軽い眩暈で上気したのは確かです
恐る恐る値札を見れば 上代 ¥5,000- 私的に決めているお値段以下 これは出逢うべくして出逢ったと
あまりよく確かめもせず あの有名な親父さんの居座る奥のレジに持って行きました
「 はい 今日は祭り一割引きで 〇万〇千円 」
「 えっ??? す、すみません 値札を読み間違えました、、、」
すると 間髪を入れず始まりましたよ ちっとも変わらないこの人の悪態が:汗
「 何?ゼロを一つ見間違えた? ふざけんじゃないよ!
人を馬鹿にするのもいい加減にしろ! ここを何処だと思ってるんだ!(強い口調 ぷりぷり)
(少し落ち着いて)…そんな値付けなら掘り出しモンですよ 場末の古本屋じゃあるまいし… 云々 」
も一度 ごめんなさい と丁寧に謝ったつもりですが
横に侍る客の話相手と(たいてい誰かと話している) 素人客はだから困る というような世間話を声高に続けておりました
わたしも 久しぶりに他人に面と向かって叱られ罵られて頭にきて すぐ退散するのも悔しいので(素人客発言に頭にキタ)
その後店内を20分ばかり眺め廻し 他に何かいい本でもあれば と探しましたが
欲しいものが見当たらず やむなく店を出ました
学生時代には 週に3回以上 よくこの店を覗きました
世はバブルに向かう頃 探していた本も多々あり 探しながら他の興味深い本に出逢う愉しさもあり
またここで購入した本の中には 不要の際にはお戻し下さい と丁稚さんに言われたものもあります
旧友のNNちゃんは この有名な親父さんと店内で口喧嘩になり出入り禁止になったそう:笑
感情を害されたりプライドを傷つけられた人は溝が大きくなってしまう事もあるようですネ
帰宅して久しぶりに日本の古本屋サイトに検索をかければ同じ本がS神井書林で倍以上の値付けです
T村の和書部は日本の古本屋サイトには加盟していない様子(洋書部2Fは通販サイトが出来ている)
T村の値付けは良心的である と近代詩の研究家の何人もからよく耳にしますので
わたしが素人であったのは間違いないのか? 学生時代の感覚で「 破格もあるかも 」 とモノを見てしまいました
悪い店ではないのですが 直情型と思われる性格の方は 店主とのやりとりに要注意デス:笑
振り返れば わが書棚は 購入よりも整理が必要で
ここで購入した不要本と交換してくれないものか とふと思いました。
画像はPinterestより拝借