もえぎの日録

関心空間(2016.10.31閉鎖)から移行 日記とキーワードが混在しています 移ろう日々のことなどを記します

紙魚の迷宮 その迷路の出口は、入り口でもある

神保町古書街 通り抜け 

地下鉄東西線を九段下で降り、首都高下の河の澱みを見るたび想い出すのは、ここが通学路でもあった学生時代の懐かしい時間です。時代は好景気に向かう中、生来の性格ゆえか?華やかに過ごす事は気恥ずかしく、恋愛をしても自らを解放できない砦を築き、またそれに甘んじ愉しむ自分も居た…もやもやの時間。

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松本竣介『Y市の橋』1944年頃 個人蔵 九段下駅から神保町へ向かう 俎橋 から南を見ると、かつては大手都銀ビルの手前に同潤会アパートがあり、その光景は松本竣介『Y市の橋』のように見えました。

そうは言いつつ、過ぎてから思う4年間の大きな恵みは、この学校の単位取得システムが学部内であれば専攻をまたいで単位を得られる点でした。一般教養終了後の専門課程3・4年もです。

美術・音楽・演劇・外国文学・語学も含め、時間割を組みながら興味の赴くままに登録してみると、それがまた新な次の扉を開くといったラビリンスでした。

上の無題日記の引用には、独逸語のおじいちゃん先生が登場します。

先生の講義はリーダーで、年輪にともなう滋味深い余談がとても楽しく、クリスマスが近づいた日にはカセットテープ持参で、シューベルト菩提樹リンデンバウム(Der Lindenbaum)を先生とみんなで歌いました。

音楽の話題が多く、数奇な生を送ったピアニスト:アーヴィン・ニレジハージ Ervin Nyiregyhazi page に触れたのも確か小宮先生だったと記憶しています。


また、星霜の日記で触れた作家ジャン・パウル(後に知った) フモールhumor に引っかかったのも、小宮先生に提出したレポート H・ヘッセの『デミアン』の感想から引き出され長く尾を引きました。この時に、シューマンで出逢うとは、またまた驚きのもやもや続きでした(笑。

日記にもある通り、フモールは別の勉強会で高橋巌氏よりご教示いただいた

C・G・ユング アプラクサス 叡智の光_Y1-アイオーン・アブラクサス詳細説明 の地平へと誘引され、3年時にはギリシャ語の門ギリシャ語のいろは)という講義も受講。(この先生もおじいちゃんで、ハイデガーの翻訳で知られる桑木務氏)

 もやもや繋がりの探索で、今ならサクっとPC検索すれば欲しい本や疑問も直ぐ解決できるでしょう。しかし、当時はPCが普及する前の時代です。書籍ならまず図書館直行。閉架なら、嫌になるほどゾゾゾと並ぶ蔵書カードを手で繰り、これと思う物をカウンターで頼んで出してもらう…この手間は待ち時間も含めると、今では考えられないことです。そんな時代に学校の開架書庫をぶらぶらして出逢ったのが井筒俊彦『神秘哲學』でした。アプラクサスって、原型は中東ギリシャに違いない、匂うぞこの本…てな具合。立ち読みでぱらぱら頁を繰ると、なんだか身の毛も逆立つ文体の井筒センセイ。今の若者なら コレはんぱねぇ(ぱねぇ~)ちょーヤベェ~(笑)という感じ?こうした意味でも文体って大事ですよね(笑。

上のキーワードで 『神秘哲學』第一部希臘神秘哲學 を引用してますが、まぁイっちゃってるな、この人という文体でしょ?

年寄りの話は、長くてネ…という揶揄も聞こえますので、端的に言えば、結局のところ もやもやの蔓は、長い人生の中でも芋づる式に連なってゆき、螺旋状に進んでなかなか出口は見つからない ということなんです。

ちょうど数年前に、関心空間K衣。氏の読書録で、井筒俊彦の標題を見つけ、著書の若松英輔さんを知りました。で、簡単そうなところから2,3読んでみたのです。

若松さんの文章には、 慈しみ と呼べる 哀しみ が、どの本にも通奏低音のように響いています。余白から、この著者は大事な人を亡くされているな…というのが直感で分かりました。図書館で借りて、好い本だと思った『悲しみの秘儀』には、その告白がありました。

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10歳近い年上の奥様を氏は、30代の終わりか40代の初め頃に病死で見送っています。この本は、マーブルカラーのようなカヴァーが7種類あり、気に入ったカヴァー本を購入しようと ついでもあったので神保町の新刊本屋に向かいました。

信山社 棚刺し1冊カヴァーがいまいちでスルー 他著作も数冊在り 

立ち寄りの田村書店の名物おぢさんは不在で、奥様が帳場に…頑固ジジイは、いつまでも世にはばかって欲しいです。下の日記のあの歌集は売れたようでした。

…最近、売れっ子の若松本だからS省堂には平台展開で在るだろうことを予測しましたが、豈図らんや上階に行っても無い…(笑)優秀な書店員さんは、直ぐに今の在庫はこれだけです…と、棚刺しの別の2冊を指さしましたorz。

あちゃ~!はじめから東京堂に行けば良かった(行ってないのですが:笑)。スズラン通りに入るのを面倒がる私がいけなかった。所用を済ませた帰りに新宿紀伊國屋に寄ると、こちらは流石に平台展開で、他著作の棚刺しも数冊以上ずらりありました。 

この本は、2015年、年初から半年間、日経夕刊の連載を書籍化したとあって、企業人として仕事をした時期のご自分を顧みるところから始まっています。奥様を亡くされた後もその病の治癒に関係したのか?健康補助食品の販売にも関わられているようですが、包み隠すことなく仕事を続けていらっしゃる姿は、これもまた人間的だと思いました。

井筒俊彦―叡知の哲学』慶應義塾大学出版会 四六判/上製/474頁 

これはまだちょっとハードルの高い本ですが、図書館予約でもしてチャレンジしてみましょう。今月末の自由学園明日館の講演もすぐ満席のお知らせで今回は逃して残念です。 震災後、西荻CDショップ『雨と休日』さんで知った青木隼人さんのギター演奏も楽しみでしたのに。。。