もえぎの日録

関心空間(2016.10.31閉鎖)から移行 日記とキーワードが混在しています 移ろう日々のことなどを記します

面 妖

季節を先取りする冷たい雨の日

上野西洋美術館のクラナッハ展へ

http://www.tbs.co.jp/vienna2016/work/index.html

お目当ては 或る種 東洋的とも思える面妖な女性たち

かれこれ10年前に観た ヴィーナス は 記録を遡れば 今回展示の作品よりも大振りなものでしたので、所蔵の違う別物でしょう。

なにしろルーカス・クラナッハ(父)は宮廷画家だけでなく企業的工房経営者として成功、数千点の絵画を残し、また政治家としても活躍。マルティン・ルターとも親交したといいますから、いい意味で裏切られた感のある一筋縄ではいかない実業家の絵描きさんでした。

まるで火星(本来なら金星)にでも降り立つ陶器肌のしなやかな肢体の女性は、黒バックの闇に浮かび上がる忘れ難いおもざしの小品。

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フランクフルト シュテーデル美術館 ヴィーナス 1532

八頭身以上ある愛と美の女神は、同じ1532年作の下画像とサイズも同じ双幅を思わせ「古代ローマ ルクレティア」の寓意を探してしまいます。

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ウィーン造形美術アカデミー ルクレティア 1532

透明な薄衣の描写も秀逸で、他、肖像作品の天鵞絨の艶めき立った着衣の質感にも眼を奪われ、手触りすら感じさせる表現技術の高さには感嘆のためいきです。

展覧会フライヤー・ポスターは 人目を惹く 生首を持つユディット 

作品情報|クラーナハ展―500年後の誘惑:TBSテレビ

繰り返し描かれ 視るものを釘付けにする妖婦のテーマは

「女のちから」(Weibermacht)と呼ばれる主題:古代神話、旧約聖書新約聖書、世俗的な寓話など、実に広範な源泉のなかから見出される「誘惑」の類型的イメージ」> 

一人の特異な画家として、宗教改革が始まる時代に生きて、政治や宗教、従来の神話に託された多様なテーマの作品群を眺めていると 富裕な実業家の生の中の襞の陰影も垣間見たように思え、新たな認識もありました。

同時代の画家:アルブレヒト・デューラー メランコリア の対比展示や 現代の森村泰昌のユディット扮装も楽しい内容です。 

ピカソ、マンレイ、デュシャン すらも クラナッハの洗礼を受けています。 

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ワイマール シュロスミュージアム ジビュレ姫の肖像 1526 

今回の来日には無かった大好きな作品 上目遣いが印象深い少女像
14歳でヨハン・フリードリヒ :ザクセン選帝侯に嫁いだ姫を クラナッハ(父)はその後も繰り返し描きました。