こみちをゆけば ちひろ美術館・東京
ほど近くに住んでもう何年になるでしょう
近くに居れば、いつでも行ける と、たかをくくり
新青梅街道沿いの案内板を見るたびに
季節のいい時に と、思っていたところ
ひとえ櫻のはなびらが石神井川に流れるうららかな日和
ちょうど八重櫻が満開になった頃
三好達治 「 甃のうえ 」 をくちづさみながらお散歩気分で行ってきました
この美術館は、
ちひろさんが、松本善明さんと2度目の結婚をし、ご長男をもうけた後に建てた私邸跡にあります
ちひろさんの経歴は、まったく知りませんでしたので
今回、初めてここを訪れ、戦前は、結婚1年目で満州で最初の婿殿を自殺で失い
戦後は共産党に入党後、後の衆議院議員となる松本氏と出逢い結婚したことを知りました
松川事件の被告弁護団のひとりであった夫君の関連か、、、お手伝いさんが拉致されるなど
戦後の闇と思えるレッド・パージを、ちひろさんは被っていたのでした
現在の企画展は 『 ちひろ と 香月泰男 ― 母のまなざし、父のまなざし ― 』
特別に、接点があった ちひろ と 香月泰男 ではないようですが
同時代を生き 家庭や子どもへの惜しみない情愛のまなざし 反戦への強い意志を持つ絵描き という点で
仕事を通しての共通の思いが見出せました
始めの展示室では
香月泰男の黒々としたシベリア抑留をモチーフにした絵を眺めながら
図録に附された、抑留時代の仔細を語る日記に引き込まれ、時が経つのも忘れて読み耽ってしまいました
戦死者への弔いを主題とした画業の数々と、ちいさきいきものへの賛歌 戦地から送られた家族子どもたちへの絵手紙など、、、
ちひろさんの展示室はうってかわり
明るく、春の色彩に包まれた子どもや母を描いた小品の季節展示のかずかず
ぼかし・にじみ の卓越した技法には驚きました
中には、輪郭線をまったく描かず 水墨画の如き技法で
背景に色を入れ 他のモチーフのにじみを利用しながら
何も描かない画用紙の白を残すことで 存在を表現する手法をとっている、、
山田五郎さんのBSぶらぶら美術館でも触れていましたが、改めて魅入りました
また、一見 美しいはなびらの中に浮かぶ花の妖精のように見える 『シクラメンの花の中の子どもたち』 は
ベトナムの戦火の中で命を失った子どもたちへの鎮魂の作品なのですね
戦中の花嫁世代であり、戦災を体験し、戦後の混乱期に新たな恋により結婚したちひろさんにとって
反戦への意思は、晩年1974年55歳で亡くなるまで ライフワークとなったテーマでした
コの字型に建てられた4つの展示室は
各部屋を結ぶ通路で仕切られ、自然光が明るく、中庭の愛らしい花壇が眺められます(画像)
生前に使われていた書斎や、彼女が記念写真の中で着ていた感じの好いワンピースも展示されて
存命であれば、私の父母よりも、ずっと年上の女性であるはずなのに
今回 彼女の作品やことばに触れることで
とても近しく感じられ、すてきな意思を持った女性に出逢ったような幸福感を得ました
おおげさではなく さらりと自然に生きたように思える人
ちいさきものたちへの未来へのおもいやりが
多くの絵本作品の いろ と かたち と ことば に 確かに残されたと言えるからでしょう
また 季節のよい折に
2012年7月公開映画も楽しみです