もえぎの日録

関心空間(2016.10.31閉鎖)から移行 日記とキーワードが混在しています 移ろう日々のことなどを記します

星 霜

穢れなき生こそは贄  凍湖より釣りあげし魚の白銀の反り

 

                      苑  翠 子

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ここ 関心空間のクラシック愛好家の方たちのキーワードに触れ

藤本一子著 『シューマン 評伝を手に取る機会に恵まれました。

 

音楽へのアプローチは、さまざまな方向から語られるもので

演奏家としての楽譜解釈に観る技術的要素やテンポの決定や強弱

創作家としての作曲の形式と内容、旋律の構成

他は、作品に影響した実人生の関係を照合するものなど

殊に3つ目は、文献と照らした評者の個人的な見解を含めたものが多く

演奏も作曲もしない、ただ聴くだけの、ど素人の私には、たいへん興味深く近づき易いものです。

 

昨年の生誕200年を機に演奏会で取り上げられることも多くなったシューマンさんは

日本で言えば幕末に活躍した人で、1810年生まれ、坂本龍馬より26歳年上です。

 

生まれは独逸プロイセン

父アウグストは著述家・翻訳家・書籍商を営み、出版社も立ち上げ

古典翻訳は百冊以上、それらは後のレクラム文庫に匹敵するもので「文庫本の祖」として知られる実業家 シューマンは啓蒙的富裕な家庭に育ったとありました。

 

音楽創作には、この文学的素地が大きく関わり

10代少年期から作家ジャン・パウルに傾倒

家業に関わる執筆活動をしたり、後にブラームスを世に送り出した『音楽新報』という批評雑誌を立ち上げたりと

演奏家・作曲家でもありながら批評にも携わる先駆者でもありました。

文献記録としての書簡も6000通が現存し、『シューマン書簡全集』も刊行準備中とのことです。

 

梅丘歌曲会館:シューマンの項

上のwebサイトの偉業も讃えるべきものがありますが

歌曲には驚くほど多くの文学作品が取り上げられ

ゲーテ、ホフマンや、同時代の詩人・作家との交流があり

特に同時代のハイネ、レーナウ、アンデルセンには実際に会って

レーナウの葬儀には連日出席したという記述があります。

画像中は、私が学生時代に信山社で購入したレクラム文庫のレーナウ

 

今回の読書で興味を惹いたのはドイツ・ロマン派のジャン・パウルです。

邦訳が読みにくいという読者評も見受けましたが、マーラー『巨人』の題材にもなり

機会あらば、読んでみたい作品

 注目すべき点は、ジャン・パウルフモールhumorという概念を『美学入門』で取り上げている事です。http://100.yahoo.co.jp/detail/...

 

ちょうど、小宮先生からレーナウをご教授いただいた学生時代に読んだヘッセの『荒野の狼』『デミアン』あたりで出逢ったと記憶するこの言葉は

現在のユーモアという言葉とは含みが異なる、かなり広い視野を持つ哲学的境地を表す言葉だと解釈しています。

 この解釈はお尻の青い10代の私には、瞠目のアウフヘーベンであり

後に、高橋巌氏にお逢いした折に紹介いただいたC・G・ユング『自伝2付録』「死者への七つの語らい」で言及されるアプラクサスへの興味に連なり、神保町で書籍を探す日々のきっかけにもなりました。

 フモールの含みがどれほどシューマン作品に反映しているかは計り知れないのですが

シューマンの音楽の感情の揺れ幅、振幅の大きさを想うと、合点がゆき納得もしました。

 ちょうど先日亡くなった 談志さんの言葉 落語は人間の業の肯定 というのに近いような気もしたり、、

 シューマンの終わりは

四十代半ばにして、革命の嵐と、音楽監督の更迭と

創作の熱情は神経障害のさなかにおいても尚も続けた或る種の天才

最期は、レーナウ同様にラインに身を投じたものの助けられ、病死となりましたが

 クララへの愛を携えて眠ることができたといえるでしょう、 瞑 目

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画像 ベランダで季節はずれに咲いているクレマチス

 

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