甃 石
やがて冷たき闇の最中にわれら沈まむ、
さらば、束の間のわれらが夏の強き光よ。
われ既に聞く、中庭の甃石に
痛ましき響を立てて落つる焚木を。
冬のなべては身の裡に今し還らむ、
憤怒(いかり)、憎悪(にくしみ)、戦慄(をののき)、恐怖(おそれ)、厳しき舎役。
北極の地獄の空の太陽か、はやわが心、
赤く凍れる一塊に過ぎざらむとす。
慄然としてわれは聴く、投げ落とす薪の響きを、
断頭台築く木霊も、かくばかり陰に籠らじ。
わが精神(こころ)重く撓まぬ鉄槌に打たれ撃たれて、
崩れゆく、城の望楼(ものみ)に似たるかな。
この単調の物音に揺られてあれば、何処にか、
柩の蓋に倉皇と釘打つごとき気はひあり。
そも誰がためぞ。-昨日(きそ)夏なりき、今し秋。
この神秘(くしび)なる物の音は、門出を告ぐる鐘と響かふ。
秋の歌 Ⅰより シャルル・ボオドレエル 齋藤磯雄譯
吾等忽ちに寒さの闇に陥らん、
夢の間なりき、強き光の夏よ、さらば。
われ既に聞いて驚く、中庭の敷石に、
落つる木片のかなしき響。
冬の凡ては ー 憤怒と憎悪、戦慄と恐怖や、
又強ひられし苦役はわが身の中に帰り来る。
北極の地獄の日にもたとえなん、
わが心は凍りて赤き鐵の破片よ。
をののぎてわれ聞く木片の落つる響は、
断頭台を人築く音なき音にも増(まさ)りたり。
わが心は重くして疲れざる
戦士の槌の一撃に崩れ倒るる観楼かな。
かかる惰き音に揺られ、何処にか、
いとも忙しく柩の釘を打つ如き・・・・そは、
昨日と逝きし夏の為め。秋來ぬと云ふ
この怪しき聲は宛(さなが)らに、死せる者送出す鐘と聞かずや。
秋の歌 Ⅰより シャルル・ボオドレエル 永井荷風譯
Chant d'Automne Charles Baudelaire
I
Bientôt nous plongerons dans les froides ténèbres ;
Adieu, vive clarté de nos étés trop courts !
J'entends déjà tomber avec des chocs funèbres
Le bois retentissant sur le pavé de cours.
Tout l'hiver va rentrer das mon être : colère,
Haine, frissons, horreur, labeur dur et forcé,
Et, comme le soleil dans son enfer polaire,
Mon cœur ne sera plus qu'un bloc rouge et glacé.
J'écoute en frémissant chaque bûche qui tombe ;
L'echafaud qu'on bâtit n'a pas d'écho plus sourd.
Mon esprit est pareil à la tour qui succombe
Sous les coups du bélier infatigable et lourd.
Il me semble, bercé par ce choc monotone,
Qu'on cloue en grande hâte un cercueil quelque part,
Pour qui ? - C'était hier l'été ; voici l'automne !
Ce bruit mystérieux sonne comme un départ.
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肌寒い曇天の遠い日
知人を介してM大学の齋藤磯雄講義に潜り込みました。
センセイは原文を幾度も朗々と暗誦した後 和譯
私は仏語はわかりませんが、磯雄譯と音韻だけが刷り込まれました。
今、web上で簡単に比較できるさいわい、
鈴木信太郎譯や永井荷風譯とも違ってやはり磯雄譯は滋味深いものです。
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サイは投げられた
ゾウの勝ち 座布団一枚
慌しい日乗の中、
笑点 林家木久扇師匠のしょうもないダジャレに元気をいただいています。
画像は Vilhelm Hammershøi