剽 窃
長年の積読本
学生時代に薦められた林達夫1939年初版6刷りの黄ばんだ中公文庫を開くも、次々に現われる固有名詞の連続に躓いて頓挫
代わりに
ちょうど一年前に購入した、めったに買わない新刊小説を開くとこれがなかなか面白くてするする読めた。
幸運にも1代でロシアの大地に広大な農地を得た地主の息子の出自から始まるその書き出しは、ロシア文豪の名作のよう、、、
そのぼんぼん息子が、20世紀初頭のロシア内戦の嵐に呑まれて家族を失い、土地を失い、身ぐるみ剥がされた喪失状態から、ヤラナケレバヤラレル方式で生き延び、奔放なゲリラ戦闘に参加。その戦闘活劇が過半で終る物語は、平成20年の吉川英治文学新人賞。
この女性作家の文体は硬質で小気味良いのだが、今回は、話の地の文に織り交ぜられる会話・心象風景に卑近で穿き捨てるような俗語が多用され(ともすると田舎方言の表現手法なのか)ていた為、どことなく劇画を思わせる箇所が感じられた。最近の小説は、弛緩した表現で読者に笑いや息抜きを提供するエンタメ性も計算されているのか、、、冷徹で高慢な若い主人公のニヒリズムが物語全体を覆うが故に、やや緩い不思議な印象。
この作家の魅力は、先述のとおり、文体が状況を切り取るアイロニーたっぷりの表現と、史実とフィクションを織り交ぜた物語内容、、、ロシア内戦時代のことなど、さっぱりな私には赤軍・白軍・黒軍も訳分からずではありながら、残酷物語も青ざめる内容に今回も十分愉しませてもらった。
しかし、読後に何かしっくりしないもやもやの湧きあがりを感じる、、
物語は、全てを失った人間が、運命に翻弄されながら辿る、一種のレジスタンス物語であるのだが、虚無と殺戮のみがクローズアップされ、どうも救いがない崩壊物語
戦いの中身の実は 救いがない とでも言いたかったのか、、、
或るいは、歴史の渦に翻弄される愚かな人間 の 愚かな繰り返し
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そんな崩壊の物語を引きずりながら観た番組
相変わらず笑いのない 辺見庸 が引用した
カミュ『ペスト』の一説に救われる
最悪なのは 絶望よりも 絶望に慣れること
表題と、小説作品は何ら関わりはありません。