もえぎの日録

関心空間(2016.10.31閉鎖)から移行 日記とキーワードが混在しています 移ろう日々のことなどを記します

魔 睡

モーリス・ルヴェルの短編「麻酔剤」が頭を掠めてもいた。

薬剤による人為的記憶障害のはじまり

それはレム睡眠にも近い 

痛覚と記憶を抹消する麻薬でもある。

「私が麻酔科の担当医○○です。

今からお話する説明・リスクについて、何かご質問やご不安がありましたら何でも仰ってください。」

四十代後半、落ち着いた物腰の美形紳士は、緑色の静脈の浮き出た手で小冊子を繰りながら、翌日の手術に関する麻酔の説明を丁寧に始めた。

「私がこの病院を選んだ理由のひとつには、術時に麻酔科医が臨席してくださることもありまして、、、。」

にっこり微笑むと同時にその口髭も緩む。

        ж

当日

遠近画法のごとく左手に手術室が十数箇所ずらりと居並ぶ中

担当看護師さんに先導されながら、点滴を提げ、歩いて6番の部屋に入る。

湿度のある奇妙な匂い

音楽が低く流れている(後で判ったことだったが、音楽はリクエスト可能だそうだ)

手助けされて手術台に上がると

手首に巻かれた個人バーコードの確認と名前の確認

脊髄麻酔を打つ前にもう一度名前を確認される。

「私に背中を向けて海老のように体を丸めてください。背中に消毒液が流れます。

背中が少しちくりとします。足は痺れてきましたか?」

「右足の感覚がありません。」

「では上を向いてマスクからガスが入ります。大きく息を3度吸ってください。」

ひとつ ふたつ 3つ目の記憶は無く、真っ白な虚無の世界に突入した。

「もえぎさん お部屋に戻りましたよ。ベッドに移りますね。」

看護師さんの声に意識が戻る。喉が痛い。

感覚のない両足に静脈血栓予防のオートマッサッジャーが低いうなりをあげる。

腹部の痛みは全く無い。なんということだろうか。薄気味悪い麻酔薬の驚異。

焼け付くような痛みが下腹部を襲ったのは、一昼夜も過ぎた翌日の晩

呼吸が苦しく、少し無理をして起き上がりの練習をした後のことだった。

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使用麻酔:腰椎麻酔・硬膜外麻酔・全身麻酔・局所麻酔

術後翌日 血圧 85/55 体温 38,2

自覚した副作用: 喉痛・嘔吐・頭痛・血圧低下・一時的呼吸障害など。  

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