もえぎの日録

関心空間(2016.10.31閉鎖)から移行 日記とキーワードが混在しています 移ろう日々のことなどを記します

障子張り

.

手拭いをあねさん被りにし 白い割ぽう着に襷がけで

明治生まれの祖母は師走もつごもりとなると

恒例の障子張りをしていた。

濡れ縁に 外した障子戸を立て掛け

如雨露でくまなく水をかけ 古い障子紙を浸す

いい塩梅に古糊の溶けた頃合をみて

四隅から静かに古紙を剥がしてゆく

この加減が難しい

上手く剥がせたら 

桟のひとつひとつを濡れ雑巾で丁寧に拭き取り

障子戸が乾く合間に敷居に薄く蝋を敷いておくもよい

大きめの刷毛に糊を付け

手際よく左から右の桟に

糊が乾かぬ内に 巻紙をたわまぬよう貼り付けて

安全剃刀で一気呵成に紙を裁つ

乾いた障子紙の 張り詰めた紙の緊張

糊の匂い

冬至を過ぎた穏やかな光の陰翳が漏れる座敷に

正月の花が活けられる

子ども時分には 縁に座り

障子張りの一部始終を眺めていた。

時々手出しをしても

及第点はなかなか貰えなかった。

障子戸の無い住まいに棲んでいくとせ

指でこっそり穴を開け 覗き見する子どもの悪戯も

もはや 忘れられつつある。

.